オーストラリアで臨床医療業務を希望される日本の医師の方は、AHPRAによるSpecialist Pathway – Short-Term Trainingを通じて申請することができます。この制度は、オーストラリアではまだ専門医として認定されていない海外の医師が、特定の分野で臨床経験やスペシャリティ研修を積むことを目的としたものです。あくまで一時的な研修制度であり、専門医としての正式な登録を目的としたものではありません。オーストラリアの医療機関からの招待(トレーニングポジション)と、該当する専門医カレッジおよびAHPRAの承認が必要です。
なお、この制度は日本の医師がオーストラリアに渡航して臨床を行うための最も現実的で実現可能な方法であり、多くの日本人医師がこの経路を利用しています。私も最初は、この経路でオーストラリアで働き始めました。私の場合は日本で小児科専門医であったため、この経路でAHPRAに申請が可能で、Mater Motehr’s Hospitalの新生児集中治療室で働き始めました。
日本人医師向けの2つの主要な経路:
- Standard Pathway
- Specialist Pathway
本日は、特に Specialist Pathwayの中のShort-Term Training in a Medical Specialty に注目して説明します。
専門医経路 − 医療専門分野における短期研修
対象となる人(Eligibility):
この短期研修プログラムは、以下のような海外医師(IMG)を対象としています:
1. 自国ですでに専門医資格を持っている医師
- 例:日本で循環器内科、整形外科、小児科などの専門医として認定されている医師
2. 専門医資格取得直前(今後1〜2年以内に取得見込み)の医師
- 例:日本で専門研修プログラムをほぼ修了しており、あと数年以内に専門医資格を取得予定の医師
- オーストラリアでは、「専門医トレーニング中(Specialist-in-training)」という扱いになり、申請対象になります。
3. 臨床研修目的でオーストラリアの医療機関から正式に受け入れが決まっている医師
- 研修期間中は監督付きでの診療活動に限られるため、独立して医療行為を行うことはできません。
対象外:
- 医学生、卒後臨床経験のない医師、またはまだ基礎研修(インターン)中の医師は対象外です。
- オーストラリアで専門医登録を目指すための評価ルート(例:Specialist Assessment)ではありません。
申請プロセスの流れ:
1. 研修ポジションを見つける
- オーストラリアの病院または専門医から短期研修(通常3〜24か月)の招待を受ける必要があります。
2. AMC(Australian Medical Council)に申請
- 医学の資格や書類をAMCに提出します。
- AMCは、EPIC(Electronic Portfolio of International Credentials)を通じて資格の認証を行います。
3. 専門医カレッジの承認を得る
- 関連するオーストラリアの専門医カレッジ(例:RACP、RACGP、RACSなど)に申請します。
- 申請内容が「短期専門研修」として妥当かどうかを評価されます。
- この経路では、正式な専門医としての認定評価は不要です。
4. AHPRAに登録申請(Limited Registration)
- カレッジの承認を得た後、AHPRAにLimited Registrationを申請します。
- AHPRAは以下を審査します:
- カレッジの承認
- 資格の認証(EPIC)
- 英語能力(IELTSまたはOET)
- 犯罪歴の確認
- 指導体制(監督プラン)
5. ビザの申請
- スポンサー(研修先の病院など)が決まっていれば、特に問題なく進行することができます。
その後もっとオーストラリアで臨床がやりたい場合、延長可能か:
短期研修終了後に引き続きオーストラリアで臨床経験を積むには、以下のいずれかの方法で「別の経路」へ移行する必要があります。
方法①:再度、短期専門研修の延長申請を行う(例外的措置)
- 一度限り、短期研修の延長が認められる場合があります(ただし原則24か月以内)。
- 同じ病院または別の施設で新たな研修目的・期間・監督体制を示す必要があります。
- 同一研修内容・同一ポジションでの延長は認められない場合が多いため、研修の目的や内容を再定義する必要があります。
- AHPRAへの再登録申請と、ビザ延長(または再申請)が必要です。
方法②:Standard Pathwayへ切り替える
- オーストラリアで正式な医師登録(General Registration)を目指す場合に利用するルートです。
- 一般的には、AMC CAT MCQ(知識試験)とAMC Clinical Exam(臨床試験)に合格する必要があります。
- その後、1年間の監督付き臨床研修(Supervised Practice)を経て、一般登録(General Registration)を取得します。
※この経路は、オーストラリアで長期的に働きたい場合に有効です。
方法③:Specialist Assessment Pathwayを利用する
- 将来的にオーストラリアで専門医として働きたい方は、この経路で「同等性評価(comparability assessment)」を受ける必要があります。
- オーストラリアの専門医カレッジ(例:RACP、RACS、RANZCOなど)が、自国の研修・資格と比較し、次のように分類します:
- Substantially Comparable(実質的に同等)
- Partially Comparable(部分的に同等)
- Not Comparable(同等でない)
- 同等性が認められた場合、臨床ポジション+監督下での一定期間の勤務+試験によりSpecialist Registrationを取得することができます。
方法④:Specialistを目指す
- オーストラリアの専門医カレッジ(例:RACP、RACS、RANZCOなど)に入会し、ローカルの医師と同様にその分野の専門医トレーニングを修了し、専門医を目指す。
まとめ
前述のようにSpecialist Pathway – Short-Term Training制度は日本の医師がオーストラリアに渡航して臨床を行うための最も現実的で実現可能な方法であり、多くの日本人医師がこの経路を利用しています。この経路で最も難しい点は、研修ポジションを見つけることだと言えます。自分の働きたい病院の診療部長と仲良くなっておく必要があり、そこの部長があなたを雇うことに同意すれば、この経路はその後比較的簡単に進んでいきます、従って、研究留学などどんな方法でもいいから、診療部長先生とのコネクションを確保することが重要です。
日本人医師:長島達郎
参照:
- Medical Board of Australia – Short-term training in a medical specialty
https://www.medicalboard.gov.au/Registration/International-Medical-Graduates/Short-term-training.aspx - AHPRA – Guidelines for Short-Term Training in a Medical Specialty
https://www.ahpra.gov.au/documents/default.aspx?record=WD16%2F20084&dbid=AP&chksum=JtJA%2BtGTIjMbkUrFu0tZRg%3D%3D