子宮内膜症は、本来であれば子宮の内側を覆う 子宮内膜組織が子宮の外に存在し、周期的に増殖・剥離・出血を繰り返す病気 です。
異所性の内膜は卵巣・卵管・骨盤腹膜・腸・膀胱などに発生し、慢性的な炎症や癒着を引き起こします。卵巣にできると「チョコレート嚢胞(子宮内膜症性嚢胞)」を形成し、進行すると破裂や卵巣捻転などの急性合併症を起こすこともあります。
子宮内膜症の病因
子宮内膜症の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの仮説や要因が知られています。
- 逆行性月経説(サンプソン説)
- 月経血が卵管を通じて骨盤内に逆流し、内膜細胞が定着して病変をつくるとされる。
- 多くの女性に逆行性月経は起こりますが、すべてが子宮内膜症になるわけではないため、免疫や遺伝も関与すると考えられています。
- 体腔上皮化生説
- 骨盤内の腹膜細胞が、何らかの刺激やホルモンの影響で内膜組織に変化する。
- リンパ行性・血行性転移説
- 子宮内膜細胞がリンパ管や血管を介して拡散し、遠隔部位に病変を形成する。まれに肺や脳に病変がみられるのはこのためと考えられます。
- 遺伝的要因
- 家族内に多くみられることから、発症に遺伝が関わると考えられています。
- 環境・ホルモン因子
- エストロゲン依存性の疾患であるため、エストロゲン過剰状態が病変の増殖を助長します。
つまり、子宮内膜症は「単一の原因」ではなく、月経血の逆流、免疫や遺伝、ホルモン環境など複数の因子が重なって起こる多因子性疾患 と理解されています。
子宮内膜症は、非常に一般的でありながらしばしば見過ごされる慢性的な病気です。オーストラリアでは、44歳までに9人に1人の女性(あるいは出生時に女性と割り当てられた人)が罹患すると推定されています。世界全体では、生殖年齢の少なくとも10%(約1億9,000万人)が子宮内膜症に苦しんでいます。オーストラリア国内では83万人以上が現在もこの病気とともに生活しています。
一方、日本においても子宮内膜症は決して稀な病気ではありません。報告によれば、日本人女性の推定5〜10%が発症するとされており、特に20〜40歳代の働き盛りの女性に多いことが特徴です。また、日本産科婦人科学会の統計によると、不妊症で治療を受ける女性の約25〜50%に子宮内膜症が関与していると考えられています。
しかし、その有病率の高さにもかかわらず、診断はしばしば大きく遅れます。平均して、症状が出てから診断までに6〜8年を要することが知られています。この遅れの背景には、症状が過敏性腸症候群(IBS)や骨盤内炎症性疾患などの他の病気と似ていること、また「生理痛は普通のこと」と誤って考えられる文化的背景があるとされています。
子宮内膜症の影響は深刻で、慢性的な骨盤痛、不妊、生産性の低下、精神的なストレスなどを引き起こし、オーストラリア経済への損失は年間97億豪ドル以上と推定されています。その大部分は仕事や学業における生産性の低下によるものです。さらに、進行した子宮内膜症は「卵巣チョコレート嚢胞」などの嚢胞形成を伴い、時には卵巣嚢胞の破裂や卵巣の捻転といった急性合併症を引き起こすことがあります。これらは突然の激しい下腹部痛として発症し、緊急の医療対応が必要となる場合があります。
スカイアーチ メディカル クリニック ブリスベンでは、この病気の認知を高め、早期診断とエビデンスに基づく治療、そして思いやりのあるサポートを提供することを大切にしています。患者さんが安心して月経や体調の悩みを話せる環境を整えることで、診断の遅れを減らし、生活の質を高めることを目指しています。また、必要に応じてブリスベン市内の信頼できる婦人科専門医にご紹介することも可能です。
主な症状
子宮内膜症の代表的な症状は強い生理痛や骨盤痛です。痛みは月経時だけでなく周期を通して続くこともあります。その他にも、以下のような症状がみられます:
- 性交時・排便時・排尿時の痛み
- 経血量が多い、または不規則な出血
- 慢性的な疲労、膨満感、腰痛
- 不妊(患者さんの最大40%に関連)
症状の程度には大きな個人差があり、日常生活に支障がない方もいれば、強い苦痛で活動が制限される方もいます。自覚症状がなく、不妊の検査で初めて発見される場合もあります。
見逃されやすい理由
診断が遅れる理由の一つは、症状がIBS(過敏性腸症候群)や泌尿器疾患と誤診されやすいことです。さらに、「生理痛は仕方がない」と我慢してしまうことで、医療機関の受診が遅れます。結果として、複数の医師を受診したのち、数年を経てようやく正しく診断されるケースが少なくありません。
診断方法
最初のステップは、問診と婦人科診察です。場合によっては経膣エコー検査で卵巣嚢胞や瘢痕組織が確認できることもありますが、小さな病変は映らないことも多くあります。
最も確実な診断方法は腹腔鏡検査です。小さなカメラを腹部に挿入し、病変を直接観察して組織を採取することで、子宮内膜症の確定診断が可能となります。
治療方法
現在のところ根治療法はありませんが、症状を軽減し、生活の質を向上させるための治療法が複数あります。
1. 痛みに対して
- NSAIDs(イブプロフェン、ナプロキセンなど)がよく使われ、炎症と痛みを抑えます。
- 鎮痛薬は他の治療と組み合わせて使われることが一般的です。
2. ホルモン療法
ホルモンの変動が子宮内膜症を悪化させるため、ホルモンを抑制する治療が有効です。
- 低用量ピルや腟リングを連続使用して月経を抑える方法
- 黄体ホルモン療法(内服・注射・IUD〔ミレーナ®〕など)
3. 外科治療
- 腹腔鏡手術で病変や癒着、卵巣嚢胞(チョコレート嚢胞)を除去
- 痛みや不妊の改善が期待できるが、再発することもあり、薬物療法との併用が推奨されます
4. 不妊治療
- 手術による病変除去で妊娠の可能性を高める場合があります
- 体外受精(IVF)などの生殖補助医療も選択肢となります
- 妊娠を希望する場合は早めに医師へ相談することが大切です
5. 補助的治療法
- 理学療法(骨盤底リハビリ)や心理的サポート、栄養指導による症状改善
- 運動や抗炎症食、ストレスマネジメントも補助的に役立つことがあります
当院では、日本とオーストラリアの両方で医療に携わった経験を持つ医師が、両国の医療文化の違いを理解しながら診療を行っています。日本から来られた患者さんには、日本語での診療を通じて安心して症状を打ち明けられる環境を提供しています。また、必要に応じてブリスベン市内の信頼できる婦人科専門医にご紹介することも可能です。子宮内膜症についてのお問い合わせは、スカイアーチ メディカル クリニック ブリスベンにお気軽にご相談ください。
日本人医師:長島達郎
参考:
- 厚生労働省 e-ヘルスネット(子宮内膜症)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/woman/wom05.html - 日本産科婦人科学会「子宮内膜症ガイドライン」
https://www.jsog.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=7 - Australian Government – Department of Health and Aged Care: https://www.health.gov.au/topics/endometriosis– Endometriosis
https://www.health.gov.au/topics/endometriosis - Jean Hailes Foundation – Endometriosis
https://www.jeanhailes.org.au/conditions/endometriosis - Endometriosis Australia
https://endometriosisaustralia.org




