― 細胞診中心の現行制度と、HPV PCR検診への移行期としての現在 ―
はじめに
日本の子宮頸がん検診は、長年にわたり細胞診(Pap smear)を中心に行われてきました。
この検査法は一定の成果を上げてきた一方で、近年ではHPV感染と子宮頸がん発症の関係が明確化し、
検診のあり方そのものを見直す議論が進みつつあります。
本稿では、
- 日本の細胞診中心の検診制度の特徴
- その長所と限界
- そして日本が現在どのように HPV PCR検診へ移行しつつあるのか
を整理します。
1️⃣ 日本の細胞診中心の子宮頸がん検診制度
現行制度の概要(日本)
- 一次検診:細胞診(Pap smear)
- HPV検査:限定的・補助的な位置づけ
- 検診間隔:多くの自治体で 1~2年ごと
- 対象年齢:主に20歳以上
- 制度運用:自治体ごとに設計・実施される分散型制度
2️⃣ 細胞診中心の制度の長所
日本の細胞診中心の検診制度には、以下のような強みがあります。
- 長年の運用実績があり、医療現場での理解と習熟度が高い
- 細胞異型を直接評価できるため、すでに起きている変化を確認できる
- 細胞診ラボや人材など、既存のインフラが全国に整備されている
これらは、日本の検診制度を支えてきた重要な要素です。
3️⃣ 細胞診中心の制度が抱える限界
一方で、医学的エビデンスの蓄積と社会環境の変化により、
以下のような課題も明らかになってきました。
感度の限界
- 細胞診は 原因(HPV感染)ではなく結果(細胞変化) を捉える検査
- CIN2+/CIN3+ の見逃し(偽陰性)が一定割合存在する
頻回検診が前提
- 感度の制約から 1~2年ごとの検診 が必要
- 受診者・医療者双方の負担が大きい
人的要因への依存
- 検体採取、標本作製、判定者の経験によるばらつき
- 地域差・施設差が生じやすい
HPVワクチン時代への適応
- ワクチン接種世代が増えると、細胞異型の頻度が低下
- 検診効率が低下する可能性
受診率向上の難しさ
- 医療者による内診・採取が必須
- 心理的・時間的ハードルが残る
4️⃣ 日本でも始まっている HPV PCR 検診への動き
近年、Japan においても、
HPV PCR(HPV DNA検査)を検診に活用する方向性が、現実的な政策として実施されるようになってきました。
背景には、
- HPV感染が子宮頸がんの主因であることが明確になったこと
- 国内外でのエビデンスの蓄積
- HPVワクチン接種世代の増加
- 検診精度と効率の両立への要請
があります。
実際に、厚生労働省 の検討会や専門家会議においても、
- HPV検査の位置づけ
- 細胞診との併用・段階的移行
- 日本の医療体制に即した導入方法
について、継続的な検討が行われています。
5️⃣ 日本の現在地:移行期としての検診制度
日本は現在、
「細胞診を基盤としつつ、HPV PCRをどのように取り入れるか」を模索する移行期
にあるといえます。
これは、従来の細胞診を否定するものではなく、
医学的進歩と社会状況の変化に応じて検診制度を進化させる過程です。
6️⃣ 今後の日本にとって重要な視点
今後の検討において重要となるのは、
- 細胞診の強みをどう活かしながらHPV PCRを組み込むか
- 検診間隔・対象年齢の最適化
- HPVワクチン政策との整合性
- 自治体間格差をどう是正するか
といった点です。
World Health Organization など国際的な勧告も参考にしつつ、
日本の医療制度・文化に適した 現実的かつ段階的な検診モデル を構築していくことが求められます。
おわりに(まとめ)
日本の子宮頸がん検診は、
細胞診という確立された基盤の上に、新たな検査法をどう重ねていくかという局面にあります。
HPV PCR検診は「流行」や「海外追随」ではなく、
検診の精度・効率・将来適応性を高めるための一つの選択肢として、
今後ますます現実的な議論の対象になっていくでしょう。
オーストラリアで働く日本人医師:長島達郎
参考
◆ WHO(世界保健機関)
- WHO guideline for screening and treatment of cervical pre-cancer lesions
最新の子宮頸がん検診ガイドライン(HPV検査の位置づけを含む)
https://www.who.int/publications/i/item/9789240040434 - WHO/HRP の新しい検診ガイドライン解説(日本語解説)
HPV DNA 検査の利点や推奨背景が整理されています
https://japan-who.or.jp/news-releases/2107-8/
◆ オーストラリア
- National Cervical Screening Program — A summary guide for healthcare providers
オーストラリアの公式 HPV 検診プログラム解説(5 年ごとの HPV 検査)
https://www.health.gov.au/sites/default/files/2025-02/national-cervical-screening-program-a-summary-guide-for-healthcare-providers_0.pdf - Australian Cancer Council:Cervical screening overview
HPV 検査に基づく検診設計と年齢区分の説明
https://www.cancer.org.au/about-us/policy-and-advocacy/early-detection/cervical-cancer/screening
◆ HPV検査の科学的背景
- Cervical screening — molecular testing (HPV)
HPV が子宮頸がんの主原因であること、PCR や NAAT 検査の感度に関するデータ
https://en.wikipedia.org/wiki/Cervical_screening
◆ 日本・国立がん研究センター
- 子宮頸がん検診に関する基本情報(がん情報サービス)
子宮頸がんや HPV ワクチン、検診一般についての公式解説
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/cervix_uteri.html
◆ 厚生労働省
- 「子宮頸がん検診への HPV 検査の導入について」資料
日本国内での HPV 検査導入に関する検討資料
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001102879.pdf
◆ 日本の検診制度に関する疫学・ガイドライン
- 日本の 2020 年子宮頸がん検診ガイドライン(Pap smear の推奨)
Cytology を中心とする推奨制度の現状が確認できます
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10885559/
HPV自己採取・世界的傾向(補足)
- HPV self-sampling の世界的利用状況(学術レビュー)
自己採取による HPV 検査利用とその可能性について
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0091743521004734




