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腱鞘炎(Tendinitis)について

腱鞘炎(Tendinitis)は、繰り返しの身体的作業を行う人に多く見られる疾患です。
特に、ワーキングホリデーでファームジョブ(果物の収穫・梱包・工場作業など)をしている方によく見られます。

これらの作業では、握る・持ち上げる・ねじる・手首や指を繰り返し動かすといった動作を長時間続けるため、腱(筋肉と骨をつなぐ線維組織)に負担がかかり、炎症や痛みが起こります。

放置すると、慢性の痛み・こわばり・神経の圧迫によるしびれや力の入りにくさにつながることもあります。

腱鞘炎(Tendinitisとは、筋肉と骨をつなぐ腱が炎症を起こす状態です。
主に以下の部位に発生します:

  • 肩:腱板炎(rotator cuff tendinitis)
  • 肘:テニス肘(外側上顆炎)、ゴルフ肘(内側上顆炎)
  • 手首・手・指:ドケルバン腱鞘炎、ばね指(狭窄性腱鞘炎)
  • 膝:膝蓋腱炎(ジャンパー膝)
  • 足首・足:アキレス腱炎、後脛骨筋腱炎

病態

過度の使用や繰り返しの負荷により、腱の線維に微細な損傷が生じ、炎症や痛みが発生します。
手や手首では、物を握る・繰り返し手首をひねるなどの動作によって腱鞘に炎症(腱鞘炎)が起こります。

代表的なもの:

  • 腱鞘炎:親指側の手首の痛み
  • ばね指:指の動きが引っかかる、またはカクンと鳴る

慢性化すると炎症よりも腱の変性(tendinosis)が主体となり、治りにくくなります。

症状

  • 痛み・圧痛(特定の部位を押すと痛い)
  • 動かすと痛みが強くなる
  • 腫れや熱感
  • 動かすと「ギシギシ」「コキコキ」とした感覚(捻髪音)
  • 動かしにくさ、朝のこわばり
  • 指が引っかかる・動かしづらい(ばね指)
  • しびれやピリピリ感(神経が圧迫された場合)

腱鞘炎炎と神経圧迫の関係

腱鞘炎は本来「腱の炎症」ですが、炎症や腫れが強い場合、周囲を通る神経を圧迫して「しびれ」「ピリピリ」「灼熱感」などの神経症状を引き起こすことがあります。

よく見られる例:

  • 手首・手
    • De Quervainドケルバン腱鞘炎 → 親指の付け根の炎症が橈骨神経の枝を刺激し、親指の甲側のしびれを生じることがあります。
    • 手根管症候群(屈筋腱の炎症) → 正中神経を圧迫し、親指・人差し指・中指にしびれが出ます。
    • ゴルフ肘(内側上顆炎) → 尺骨神経を刺激し、薬指・小指のしびれを起こすことがあります。
    • テニス肘(外側上顆炎) → 橈骨神経を刺激し、前腕への放散痛を生じることがあります。
  • 足首
    • 後脛骨筋腱炎 → 内くるぶし周囲の腫れで脛骨神経(足根管)を圧迫し、足裏のしびれを起こします。

診断

多くは問診と身体診察で診断できます。
必要に応じて以下の検査を行います:

  • 超音波検査:腱や腱鞘の炎症・液体貯留を確認
  • MRI検査:部分断裂や慢性変性の評価
  • 神経伝導検査:しびれや神経圧迫の程度を評価

治療(Management

早期の受診と治療が最も重要です。
特にファームジョブや工場作業などの労働者は、痛みを我慢して作業を続ける傾向があり、それが炎症を悪化させる主な原因となります。

早めにGPを受診することで、正確な診断、治療方針の決定、必要に応じた医療証明や保険対応が可能になります。

1. 安静と動作制限

  • 痛みを起こす動作(握る・持ち上げる・ひねるなど)を避ける
  • 作業内容を交代・分担する
  • 急な重労働や無理な体勢を控える

2. 装具・サポーター

  • 手首や指を一時的に固定し、腱への負担を軽減
  • 特にドケルバン腱鞘炎やばね指に有効

3. 冷却・温熱療法

  • 急性期(痛みが強い最初の2〜3日):冷却で炎症を抑える
  • 慢性期(こわばりが続く場合):温熱で血流を促す

4. 薬物療法

  • NSAIDs(抗炎症薬):イブプロフェン、ナプロキセンなど
  • 外用薬(塗り薬・湿布):局所の痛みや炎症を抑える

5. 理学療法・ハンドセラピー

  • ストレッチ・筋力トレーニング
  • マッサージで回復を促進

6. ステロイド注射

  • 通常の治療で改善しない場合に一時的に使用
  • ただし、繰り返し注射は腱断裂のリスクがあるため、GPまたは専門医が慎重に判断

7. 神経圧迫への対応

  • しびれ・ピリピリ感・力の入りにくさをモニタリング
  • 改善しない場合は神経伝導検査や整形外科/手外科専門医への紹介

8. 手術

  • 慢性化や再発例で、保存療法(リハビリ・薬など)で改善しない場合に検討

セルフケアと予防

  • 作業前のウォームアップ・ストレッチ
  • 休憩中に手首・指を軽く動かす
  • サポーターや滑り止め手袋の活用
  • 水分摂取とバランスのとれた栄養
  • 痛みが出たら我慢せず早めにGPに相談

予後

早期に正しい治療を受ければ、多くの方が数週間から数か月で回復します。
しかし放置すると、慢性腱症(tendinopathy)へ進行し、痛みやこわばりが長期間続くことがあります。
早めの受診が、長期的な後遺症・神経障害・就労困難を防ぐ鍵です。腱鞘炎でお悩みの方はスカイアーチメディカルクリニックブリスベンにお気軽にご相談ください。

オーストラリアの日本人医師:長島達郎

参考

  1. RACGP – Tendinopathy: Clinical Update and Management
     https://www1.racgp.org.au/ajgp/2019/may/tendinopathy
  2. Healthdirect Australia – Tendinopathy
     https://www.healthdirect.gov.au/tendinopathy
  3. Better Health Channel – Tendonitis (Tendinitis)
     https://www.betterhealth.vic.gov.au/health/conditionsandtreatments/tendonitis
  4. Australian Physiotherapy Association – Managing Tendinopathy
     https://australian.physio/inmotion/managing-tendinopathy
  5. RACGP – Common Hand and Wrist Conditions
     https://www1.racgp.org.au/ajgp/2021/august/common-hand-and-wrist-conditions

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