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トランスジェンダー男性(FTM)のためのオーストラリアにおける子宮頸がん検査(CST)

子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)が主な原因とされるがんで、早期に発見することで予防や治療が可能になります。オーストラリアでは National Cervical Screening Program(NCSP) によって、25歳から74歳までのすべての人が定期的に検診を受けられる体制が整っています。

このプログラムはシスジェンダー女性だけのものではなく、子宮頸部を持つすべての人──トランスジェンダー男性やノンバイナリーの方も等しく対象です。けれども、トランスジェンダー男性にとって検査を受けることは、ときに身体的・心理的に大きなハードルとなり得ます。そうした不安や複雑な気持ちはとても自然なものです。だからこそ、私たちは「安心して、そして自分らしさを尊重されながら受けられる検診」を一緒に考えていきたいと考えています。

1. 背景

  • オーストラリアのNational Cervical Screening Program(NCSP) は、子宮頸部を持つすべての人(シスジェンダー女性、トランスジェンダー男性、ノンバイナリーの方など)を対象としています。
  • 2017年から、従来の2年ごとのPAP Test検査は廃止され、5年ごとのHPV DNA検査(CST) に変更されました。
  • 対象年齢は 25歳〜74歳 です(子宮頸部が残っている場合)。

2. トランスジェンダー男性の対象条件

  • 子宮頸部が残っている場合 → 5年ごとのCSTが必要。
  • 子宮全摘術(子宮頸部も除去)を良性疾患で受けた場合 → 検診は不要。
  • 子宮頸部を残す子宮摘出(亜全摘) → 検診が必要。
  • テストステロン療法 を行っていても、子宮頸部がある限りCSTは必要です。

3. 検査に伴う課題

  • 身体的な課題:テストステロンの影響により、腟や子宮頸部の萎縮が進み、検査が痛みを伴ったり、検体不良になることがあります。
  • 心理的な課題:ジェンダーディスフォリア、過去のトラウマ、差別やミスジェンダリングへの不安などが受診をためらわせる要因になります。
  • 制度的な課題:医療者の知識や配慮が十分でない場合もあり、患者さんにとって安心できる環境が整っていないケースがあります。

4. 受診をより安心にするための工夫

  • 自己採取HPV検査(2022年7月から全員に解禁):
    • クリニック内の個室で自分で膣スワブを採取。
    • トランス男性にとって侵襲性が少なく、受け入れやすい方法。
    • HPV陽性の場合 → 医師による追加検体採取やコルポスコピーが必要。
  • 局所エストロゲン膣剤(短期間使用)は、萎縮が強い場合に検体の精度を高める効果があります(本人が受け入れ可能な場合)。

子宮頸部を持つすべての人(トランスジェンダー男性を含む) は、25歳から74歳まで5年ごとにCSTを受けることが推奨されます。自己採取検査の普及により、検査に伴う心理的な負担は以前より大きく軽減されました。それでも不安を感じるときは、一人で抱え込まずに医療者と一緒に解決策を探していくことが大切です。子宮頸がん検査(CST)をご希望の方、あるいは不安や疑問をお持ちの方は、どうぞお気軽に スカイアーチ メディカル クリニック ブリスベン にご相談ください。

日本人医師:長島達郎

参考

  • Cancer Council Australia – National Cervical Screening Program (NCSP):
    https://www.cancerscreening.gov.au/cervical
  • Cancer Council Australia – Cervical screening for trans and gender diverse people:
    https://www.cancer.org.au/cervicalscreening/health-professionals/trans-and-gender-diverse
  • RACGP – Cervical screening:
    https://www.racgp.org.au/clinical-resources/clinical-guidelines/key-racgp-guidelines/view-all-racgp-guidelines/cervical
  • TransHub (ACON) – Cervical screening and trans people:
    https://www.transhub.org.au/clinicians/cervical-screening
  • Department of Health, Australian Government – Self-collection of a vaginal sample:
    https://www.health.gov.au/topics/national-cervical-screening-program/self-collection
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