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子宮頸がん検査およびその制度について:オーストラリアと日本の違い

子宮頸がん検査(Cervical Screening Test: CST)について説明します。子宮頸がん検査は、子宮頸がんの早期発見および予防において重要な役割を果たしますが、その検診方法は国によって大きく異なります。オーストラリアでは、エビデンスに基づき、国の子宮頸がん検診プログラムにおいてヒトパピローマウイルス(Human Papilloma Virus: HPV)検査を一次検査として導入しています。一方、日本では細胞診(いわゆるパップテスト、PAP test)が主な検診方法として用いられています。こうした違いは、各国の医療政策や国民の健康意識、科学的知見の導入状況の違いを反映しています。両国の検診制度の相違を理解することは、国際的な医療の中で適切な選択をする上で重要です。

子宮頸がんとヒトパピローマウイルス(Human Papilloma Virus: HPV)

まずは、子宮頸がんの原因は何かについて説明します。子宮頸がんは、HPV(ヒトパピローマウイルス)に曝露されていない場合には非常にまれにしか発症しません。

  • 子宮頸がんの99%以上は、高リスク型HPVの持続感染が原因とされています(特にHPV16型と18型)。
  • HPVは子宮頸部の細胞に感染し、前がん病変(異形成)を引き起こし、これが数年かけてがんへと進行する可能性があります。
  • この因果関係が非常に強いため、オーストラリアをはじめとした多くの国では、パップテストに代わりHPV検査が一次スクリーニングとして採用されています。

HPV陰性の子宮頸がんは存在するかについてですが、報告はありますが極めてまれです。真にHPVと無関係な子宮頸がんは非常に稀です。子宮頸がんのほとんどすべて(99%以上)は、高リスク型HPV(ヒトパピローマウイルス)の持続感染によって引き起こされることが、世界中の研究で明らかになっています。HPVは子宮頸部の細胞に感染し、異形成という前がん状態を経て、長期間かけてがんへと進行することがあります。このように、子宮頸がんはHPV感染がなければほとんど発生しないため、CST(Cervical Screening Test)でHPVの有無を調べることは非常に合理的で効果的な検査方法です。従来のパップテスト(細胞診)は異常細胞の有無を見るものでしたが、HPV検査はがんの原因そのものを早期に検出するため、より正確で前向きな予防が可能になります。この科学的根拠に基づき、オーストラリアでは2017年からCSTによるHPV検査が導入され、検診間隔も5年に延長されました。がんになる前段階で原因ウイルスを見つけることで、より安全に、より早くリスクを把握できるのがCSTの大きな利点です。

オーストラリアと日本における子宮頸がんの死亡統計

項目オーストラリア日本
年間死亡者数約243人(2024年推定)約4,213人(2023年推定)
年齢標準化死亡率約2.0/10万人(2022年)約2.93/10万人
若年女性の死亡傾向低く安定して減少中増加傾向(特に50歳未満)

オーストラリアでは1991年に開始された全国子宮頸がん検診プログラム(PAPテスト)や、2007年開始のHPVワクチン接種によって、罹患率・死亡率ともに半減する成果が出ています。HPV検査とワクチン接種の普及により、2035年までに子宮頸がんが「まれな病気」になる(診断率4人/10万人未満)ことが目標とされています。

日本では、長期間にわたるHPVワクチンの積極的な推奨停止(2013年〜2021年)により、発症や死亡リスクの低下が遅れていたと指摘されています。その結果、若年層を含めた死亡者数が増加しており、HPVワクチンの再推進および検診制度の整備が急務とされています。オーストラリアでは、HPVワクチンと高精度のスクリーニング(HPV検査)を組み合わせた包括的な対策の結果、子宮頸がんによる死亡率が低水準に安定しています。

子宮頸がん検査について

1. 検査方法(Screening Method

オーストラリアでは、子宮頸がんの原因となるウイルスを検出するHPV(ヒトパピローマウイルス)検査が一次検査として使用されています。この方法により、リスクを早期かつ正確に把握できます。
一方、日本では細胞診(パップテスト)が主流であり、これはHPV感染が進行して異常細胞が出現した段階で検出するものです。

2. 検査間隔(Screening Interval

オーストラリアでは、HPV検査が陰性であれば5年ごとの検査が推奨されており、高感度かつ予測精度の高さが特徴です。
日本では一般的に2年に1回の検診が推奨されていますが、自治体の補助による無料検診は5年に1回のみの場合もあります。

3. 対象年齢と制度の仕組み(Target Age and Program Structure

オーストラリアでは、25〜74歳のすべての対象者を国家主導の検診プログラム(NCSP)に基づき管理しており、招待状やリマインダー、データ追跡が含まれます。
日本では20歳以上が対象ですが、自治体ごとの任意検診であり、アクセスや費用補助、フォローアップ体制には地域差があります。

4. 自己採取(Self-Collection Availability

オーストラリアでは、2022年以降、すべての対象者が自己採取を選択可能となっており、受診率の向上に大きく寄与しています。文化的・心理的に内診が苦手な人にも対応できます。
日本では自己採取は一般化されておらず、一部の研究や試験的導入にとどまっています。

5. HPVワクチンとの連携(Integration with HPV Vaccination

オーストラリアはHPVワクチン接種率が非常に高く、検診プログラムと連動して実施されており、子宮頸がんの発症率が大きく減少しています。
日本では、長らく政府の推奨が中断されていたため接種率が低迷していましたが、近年ようやく回復傾向にあります。

日本の子宮頸がん検査パップテスト(細胞診検査)の欠点

パップテスト(細胞診検査)は、子宮頸がんの発症率を下げるうえで歴史的に重要な役割を果たしてきましたが、現在ではいくつかの欠点も指摘されています。特に、オーストラリアのようにHPV検査を取り入れたより現代的なスクリーニングと比較すると、その限界が明確になります。以下に、日本で現在も主に使用されているパップテストの主な課題を示します。

  1. 感度が低い(見逃しのリスク)
    • パップテストは異常細胞を直接検出する方法ですが、一度の検査で前がん病変を見逃す可能性が高い(感度は約50〜60%)とされています。
    • そのため、日本では2年に1回の頻度での定期検診が必要とされています。
  2. HPV感染の有無を調べない
    • パップテストではがんの原因であるHPV感染の有無はわからず、異常が現れてから初めて対応する「後追い型」の検診になります。
    • HPV検査と比べると、予防的な観点が弱いというデメリットがあります。
  3. 検査結果のばらつき(読み取りの主観性)
    • 細胞診は顕微鏡での人の目による判定が必要で、検査技師の熟練度に依存します。
    • 読み間違いや判定のばらつきが発生しやすいのが課題です。
  4. 前がん病変の検出が遅れる可能性
    • HPV感染は細胞異常よりも数年先に起こるため、パップテストでは前がん状態を見逃しやすく、がんになってから気づくこともあります。
  5. 検診率の低さと制度的な課題
    • 日本では公的な案内が不十分な自治体も多く、受診率が低い(約40%未満)ことが長年の問題です。
    • HPV検査への移行が進んでおらず、最新の国際的推奨に遅れを取っているとも言えます。

オーストラリアでは子宮頸がん検査(Cervical Screening Test: CST)5年に1回の理由

なぜオーストラリアでは5年に1回の子宮頸がんスクリーニング(CST:HPV検査)で十分とされているのかについて説明します。

1HPV検査は感度が高く、前がん状態を早期に発見できる

  • HPV検査は、従来のパップテスト(細胞診)よりもはるかに高い精度(感度90%以上)で、子宮頸がんの原因ウイルス(高リスク型HPV)を直接検出できます。
  • HPV感染から細胞異常、がん化までには通常10年以上の時間がかかるため、一度のHPV陰性結果は長期間の安全性を保証できるという科学的根拠があります。

2:陰性の場合、リスクが非常に低い

  • 高リスクHPVが検出されなかった場合、次の5年間に子宮頸がんになる可能性は極めて低いと多くの大規模研究で確認されています。
  • そのため、陰性の方に対しては毎年検査をする必要がなく、過剰検査や不必要な処置を減らすことが可能です。

3:安全性と効率のバランス

  • HPV検査によって、検診の回数を減らしつつ、子宮頸がんの発症率と死亡率を従来以上に効果的に下げることができるとされています。
  • この検診間隔の延長は、科学的エビデンスに基づいた政策変更であり、国の専門委員会による厳格な評価の上で導入されました。

科学的根拠に基づいた制度改革

  • オーストラリアでは2017年にCST(HPV検査)へと全面的に移行し、25歳から74歳の女性を対象に5年に1回の検診が推奨されています。
  • この制度改革は、子宮頸がんの発症をさらに減少させる効果があると予測されており、世界的にも注目されています。

まとめ

子宮頸がんは、オーストラリア・日本いずれにおいても女性の命を奪う原因のひとつです。HPVワクチン接種率の向上と、HPV検査を中心とした検診制度の整備が必要不可欠です。子宮頸がんは「予防が可能ながん」です。ワクチン接種、適切な検診を受け続けることが、将来的にはこの病気による死亡をさらに減らすカギとなります。子宮頸がん予防と撲滅に、子宮頸がん検査を受けることは重要です。スカイアーチ メディカル クリニック ブリスベンにお気軽にお問い合わせください。

日本人医師:長島達郎

参考

  1. WHO(世界保健機関) – Global Strategy to Eliminate Cervical Cancer
    https://www.who.int/publications/i/item/9789240014107

  2. The Lancet – Global Burden of Cervical Cancer: Past, Present, and Future
    https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(19)32765-5/fulltext
  3. HPV Information Centre – Japan Fact Sheet
    https://hpvcentre.net/statistics/reports/JPN_FS.pdf
  4. GLOBOCAN 2020 – Cervical Cancer Statistics by Country
    https://gco.iarc.fr/today/home
  1. Cancer Australia – Cervical Cancer in Australia Statistics
    https://www.canceraustralia.gov.au/cancer-types/cervical-cancer/cervical-cancer-australia-statistics
  2. Australian Government Department of Health – National Cervical Screening Program (NCSP)
    https://www.health.gov.au/topics/cervical-screening
  3. Australian Institute of Health and Welfare (AIHW) – Cervical screening in Australia
    https://www.aihw.gov.au/reports/cancer-screening/national-cervical-screening-program-monitoring-report
  4. The Medical Journal of Australia – Self-collection of HPV samples
    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.5694/mja2.51420
  1. 国立がん研究センター がん情報サービス – 子宮頸がんの統計
    https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/uterine_cervix.html
  2. 厚生労働省 – HPVワクチンと子宮頸がん検診について
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000187997.html
    https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000204234.html
  3. 日本産婦人科医会 – 子宮頸がん予防に関する提言
    https://www.jaog.or.jp
  4. 日本疫学会誌:若年女性の子宮頸がん死亡率の上昇傾向に関する研究
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jea/advpub/0/advpub_JE20210142/_pdf

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