熱傷(やけど)は、熱や化学物質、電気、放射線などによって皮膚やその下の組織が損傷を受ける外傷です。特に 台所での調理中に起きる熱い油によるやけど は非常に多く、家庭内で発生する熱傷の中でも重症化しやすい特徴があります。
熱した油は150〜200℃以上の高温に達することが多く、わずかな接触でも皮膚の奥深くまでダメージを与えます。その結果、短時間でⅡ度からⅢ度熱傷(皮膚全層の損傷)に進展する危険性があり、感染や瘢痕(あと)、関節可動域の制限など長期的な合併症を残す可能性があります。
さらに、油は皮膚に付着しやすく、衣服を通じて損傷範囲が広がることもあるため、「見た目よりも重症」であることが少なくありません。特に 顔や手、関節部位、小児のやけど は小さな範囲でも深刻な影響を及ぼすため、自己判断せずに必ず医療機関を受診することが大切です。
小児の熱傷について
小児は皮膚が薄く、熱の影響を受けやすいため、短時間の接触でも大人以上に深刻な損傷を負います。台所では、熱した揚げ油鍋やフライパン、電気ケトルなどによる事故が頻発しています。小児の場合は軽症に見えても実際には骨や関節、成長板にまで影響することがあるため、医師の診察が奨められます。
熱い油によるやけどの特徴
- 接触面積が狭くても深部に及ぶ損傷を受けやすい
- 水ぶくれ(水疱)が破れやすく、感染リスクが高い
- 顔や手、関節部位に起きると瘢痕や機能障害が残りやすい
- 衣服を通して損傷が拡大することがある
- 小児や高齢者では特に重症化しやすい
初期対応(応急処置)
- 流水で20分間冷却(ただし氷水や直接の氷は避ける)
- 衣服が皮膚に付着している場合は無理に剥がさない
- 乾いた清潔な布や食品用ラップで患部を覆い感染を予防
- 必要に応じて鎮痛薬を使用
治療
- 診察・評価
- 損傷の深さと範囲(体表面積)を確認
- 顔・手・関節部位・小児の場合は特に注意深く診断
- 創処置
- 傷口の洗浄と消毒
- 水ぶくれ(水疱)は原則として自然に保護膜として残すが、大きく破れている場合は無菌的に処理
- 創部を乾かさず、専用の熱傷用軟膏(例:銀含有クリーム)や湿潤環境を保つドレッシング材を使用
- 薬物治療
- 鎮痛薬の処方(パラセタモール、NSAIDs など)
- 感染の兆候がある場合は抗生物質を検討
- 全身管理
- 脱水予防のための水分補給指導
- 広範囲熱傷ではショックや循環不全のリスクがあるため救急搬送を検討
- 専門医療機関への紹介
- 重症例や顔・手・関節部位・小児の深部熱傷では、熱傷専門施設や形成外科への紹介
回復の目安
- Ⅰ度(表皮):数日で自然回復、跡が残らないことが多い
- Ⅱ度(真皮まで):2〜3週間で回復、色素沈着や跡が残ることがある
- Ⅲ度(皮膚全層):長期治療が必要で、皮膚移植が行われる場合もある
WorkCover(労災保険)について
もし台所や職場での業務中にやけどを負った場合、WorkCover(労災補償保険)を申請できる可能性があります。
SkyArch Medical Clinic Brisbane では、診断書や治療記録を整えて労災申請のサポートも行っています。職場での事故によるやけどの場合は、必ずご相談ください。
熱い油によるやけどを含め、熱傷全般の診療や処置については SkyArch Medical Clinic Brisbane にご相談ください。必要に応じて、熱傷専門病院や形成外科への紹介も行っています。
日本人医師:長島達郎
参考
- 日本形成外科学会「熱傷(やけど)」
https://www.jsprs.or.jp/public/burn.html - Queensland Health – Burns First Aid
https://www.health.qld.gov.au/emergency/first-aid/burns - RACGP – Burns management in general practice
https://www.racgp.org.au/afp/2012/march/burns-management