百日咳(Pertussis)は、Bordetella pertussis によって引き起こされる感染力の強い呼吸器感染症です。感染者が咳やくしゃみをした際に飛散する飛沫を介して広がります。症状は多くの場合、鼻水、軽い咳、微熱などの軽い風邪様症状から始まりますが、進行すると激しい咳発作を繰り返すようになり、その後に特有の「ヒュー」という吸気音(whoop)が聞かれることがあります。生後6か月未満の乳児は特に重症化のリスクが高く、肺炎、けいれん、脳障害、死亡などの合併症を引き起こすことがあります。広範な予防接種プログラムが行われているにもかかわらず、百日咳は依然として流行し、3〜4年ごとの周期的な流行が見られます。免疫の減弱、不完全な予防接種、病原体の変化(抗生物質耐性を含む)が再流行の要因です。2025年は日本とオーストラリアの両国で大幅な患者増加が確認されています。
日本 — 現状
- 2025年大流行:これまでに5万例以上が報告され、過去最多。
- 急速な増加:4月時点の4,100例から7月には約4万例に増加し、現在も上昇傾向。
- 抗菌薬耐性:複数の都道府県でマクロライド耐性 B. pertussis が検出。
- 全年齢層に広がる感染:成人は無症候性キャリアとなることが多い。
公衆衛生対策:
- 定期および追加接種(11〜12歳での任意追加接種を含む)
- 妊婦および乳児の養育者への接種推奨
- マスク着用と咳エチケット
- 感染症法に基づく届出義務
日本の百日咳ワクチン接種スケジュール(四種混合ワクチン:ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ)
(2025年時点の定期接種スケジュール)
- 初回接種:生後3か月、4か月、5か月の計3回
- 追加接種:初回完了からおおむね12〜18か月後(生後12〜18か月頃)に1回
- 任意接種(推奨):11〜12歳頃に三種混合(Tdap)による追加接種
- 妊婦への接種:妊娠27〜36週の間にTdapを1回(任意だが推奨、特に乳児保護のため)
オーストラリア — 現状
全国の状況
- 記録的な患者数:2024年に5万7,000例以上、2025年前半だけで1万4,000例以上。
- 周期の増幅:COVID-19の影響、ワクチン忌避、免疫減弱が流行を悪化。
- 多発地域:ニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州、西オーストラリア州キンバリー地域。
- クイーンズランド州:2025年に2,384例(例年の約3.5倍)。
リスク
- 予防接種が未完了の乳児が最も脆弱。
- 免疫が低下した成人が主な感染源。
- 一部地域で接種率低下(例:QLD州の1歳児接種率は2023年に90.8%、2018年から約4%低下)。
オーストラリアの百日咳ワクチン接種スケジュール
- 全国予防接種プログラム:生後2、4、6、18か月、4歳、11〜13歳で接種。
- 妊婦接種:妊娠20〜32週に推奨(国の支援により無料、乳児保護のため)
- 乳児周囲の成人への追加接種を促す啓発活動。
百日咳感染症に対する治療
- 第一選択抗菌薬:マクロライド系(アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン)。
- 代替薬(マクロライド不耐性/耐性例):2か月以上の患者にトリメトプリム・スルファメトキサゾール(コトリモキサゾール)。
- 目的:カタル期または早期痙咳期に抗菌薬を開始すると感染力を減弱し、症状期間を短縮できる可能性がある。
- 支持療法:水分補給、安静、気道のやさしいクリアランス、重症例では酸素投与、乳児や合併症例は入院管理。
- 日本での耐性:重症例では耐性検査の重要性が増している。
オーストラリアでの隔離の指針
確定例:
- 適切な抗菌薬開始後5日間、または未治療の場合は咳の発症から21日間、保育施設・学校・職場から隔離。
濃厚接触者:
- 特に6か月未満の乳児がいる家庭では予防的抗菌薬を推奨。
- 未接種接触者はハイリスク環境からの隔離が必要になる場合あり。
日本での隔離の指針
確定例:
- 感染症法により、抗菌薬開始後5日間または咳が止まるまで登校禁止。
濃厚接触者:
- 乳児やハイリスク者と接触する家族等には予防投薬を検討。
公衆衛生メッセージ:
- 軽い症状でも咳がある場合は乳児やハイリスク者との接触を避ける。
比較表
項目 | 日本(2025年半ば) | オーストラリア(2025年半ば) |
総症例数 | 5万例以上(過去最多) | 2024年5万7,000例;2025年前半1万4,000例以上 |
傾向 | 急激な増加 | 高水準での継続的伝播 |
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日本人医師:長島達郎
参考
- The Straits Times. Japan’s whooping cough cases hit new weekly high. https://www.straitstimes.com/asia/east-asia/japans-whooping-cough-cases-hit-new-weekly-high-at-over-3300
- NIID Japan. Pertussis — Infectious Diseases Weekly Report guidance. https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/pertussis/020/250422_JIHS_Pertussis_en.pdf
- NCIRS Australia. Australia’s whooping cough surge — implications for all ages. https://ncirs.org.au/australias-whooping-cough-surge-not-over-and-it-doesnt-just-affect-babies
- Immunisation Handbook Australia. Pertussis (whooping cough). https://immunisationhandbook.health.gov.au/contents/vaccine-preventable-diseases/pertussis-whooping-cough
- Courier Mail. Whooping cough cases eight times higher than usual in NT. https://www.couriermail.com.au/news/whooping-cough-cases-eight-times-higher-than-usual-in-nt-prompting-concern-for-infants/news-story/2d5962511ab3516d723a7282cc68b33b
- News.com.au. Queensland hit by surge in whooping cough cases. https://www.news.com.au/lifestyle/health/queensland-hit-by-surge-in-whooping-cough-cases-as-experts-blame-low-vaccination-levels/news-story/59a975fb60d057f04a666ec2fc1f5eae
- CDC (USA). Treatment of Pertussis. https://www.cdc.gov/pertussis/clinical/treatment.html