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高齢者の運転能力評価:オーストラリアと日本の比較

オーストラリアと日本の高齢者運転評価制度の違いを、特にオーストラリアにおけるGPの役割に焦点を当てながら説明します。世界的な高齢化が進む中、高齢者の運転能力を評価することは、公共の安全と個人の自立を守る上で極めて重要な課題となっています。運転は単なる移動手段にとどまらず、高齢者にとっては精神的な健康や社会的つながりを維持する大切な要素です。しかしながら、視力の低下、反応速度の遅れ、認知機能の変化、複数の慢性疾患など、高齢に伴う変化は運転の安全性に影響を与える可能性があります。そのため、自立を尊重しつつ安全性を確保するためには、公平で慎重、かつ構造化された評価システムが必要です。

オーストラリアの制度は、General Practitioner(GP)を中心とした臨床的なアプローチが導入されています。国のガイドラインに基づき、個々の健康状態に即した包括的な判断が行われ、必要に応じて運転継続や中止の支援が行われます。一方、日本では政府主導の標準化された認知機能検査を中心とするシステムが採用されており、医療現場の関与は限定的です。


オーストラリア:GPを中心とした高齢者運転評価制度

【年齢別の法的・医療的要件】

  • ニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州、ACT:75歳以上で毎年GPによる健康診断が義務。必要に応じて実技試験も実施。
  • 西オーストラリア州:80歳から毎年GPの評価が必要。
  • ビクトリア州・タスマニア州:年齢による義務はなし。運転者自身の申告や第三者からの通報に基づいて対応。

【GPの実務的な役割】

  • 2022年のAustroads「運転適性評価ガイドライン」に準拠。
  • 毎年の健康診断では以下を評価:
    • 医療歴や薬剤使用歴の確認
    • 認知機能、視力、聴力、筋力、反応速度の評価
    • 認知スクリーニング
  • 必要に応じて、作業療法士によるオンロード評価を紹介(これがゴールドスタンダード)。
  • MJAの推奨により、診察室での初期評価後、段階的に運転中止の提案や家族との連携を行う。
  • 多くの州では、GP発行の健康診断書の携帯が義務。未携帯には罰則あり(例:QLD)。

日本:政府主導の認知機能検査と適性試験

【70歳以上の免許更新プロセス】

  • 70歳以上:高齢による運転影響についての講習が義務化。
  • 75歳以上:免許更新前に認知機能検査を受け、結果が悪い場合は医療機関での診断や免許停止の可能性。

【追加の検査】

  • 違反歴や運転能力の疑いがある場合は、運転技能検査(操作・注意・速度管理など、100点中70点が合格ライン)が実施される。

まとめ

オーストラリアでは、GPが高齢者の運転適性評価において中心的な役割を担っています。国家基準(Austroads)や各州の制度に基づき、健康状態と認知機能の評価、オンロード評価への紹介、そして安全かつ尊厳を保った運転中止への支援まで、包括的なサポートが提供されます。一方、日本の制度は政府主導型。標準化された検査と教育を通じた評価が行われる一方で、医療専門家の関与や個別対応の柔軟性についてが課題と言えそうです。

日本人医師:長島達郎

参考

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