破傷風ワクチン ブースター(追加接種)について説明します。
破傷風は Clostridium tetani(破傷風菌)によって引き起こされる、命に関わる感染症です。軽度の外傷であっても、皮膚の損傷部分から破傷風菌の芽胞が体内に入り、神経毒素を放出して、筋肉の硬直やけいれんを引き起こす可能性があります。
オーストラリアでは予防接種プログラムにより発症はまれですが、環境的な汚染(例:土、ほこり、動物の排泄物)に接触することで感染リスクは依然として存在します。このため、外傷後には破傷風ブースター(追加接種)が重要であり、免疫を回復させ重症化を防ぐ目的で実施されます。
破傷風 C. tetani 菌
破傷風は、C. tetani 菌によって引き起こされます。この菌は土壌、ほこり、動物の排泄物などに存在し、傷口から体内に侵入して神経に作用する毒素を産生します。これにより筋肉が硬直し、重篤なけいれんや死亡に至ることもあります。
ケガの後に破傷風ブースターを接種する理由は以下の通りです:
- 傷口に破傷風菌の芽胞が入った可能性に備える
- 最後の接種から年月が経っている場合、免疫レベルを確保する
- 外傷後はできるだけ早く、理想的には外傷後48時間以内に接種することが望ましいとされています。特に汚染された創傷や高リスクなケースでは、免疫応答が効果を発揮する前に菌が毒素を産生する可能性があるため、早期接種が極めて重要です。
オーストラリアにおける破傷風ブースター
使用ワクチン:dT(ジフテリア・破傷風)、または dTpa(ジフテリア・破傷風・百日咳)
| 外傷の種類 | ブースターが必要となる条件 | 処置 |
| 清潔で軽度の傷 | 最後の接種から10年以上経過 | dT または dTpa |
| 汚染された傷/高リスク傷(例:土、動物咬傷、刺し傷) | 最後の接種から5年以上経過 | dT または dTpa |
| ワクチン歴が不明または不完全 | 常にブースター接種を行い、高リスク傷ならTIGも検討 | dT/dTpa ± TIG(破傷風免疫グロブリン) |
- TIG(破傷風免疫グロブリン)は、ワクチン接種歴が不十分な患者で、高リスクの傷がある場合に追加されるものです。
- 成人は10年ごとのブースター接種が推奨されており、高リスク旅行者は5年ごとが推奨されています。
ワクチン製剤の違いについて
- dT(ジフテリア・破傷風ワクチン):
→ 主に外傷後のブースターとして使用されます。
→ 百日咳成分は含まれていません。 - dTpa(ジフテリア・破傷風・百日咳ワクチン):
→ 定期的な予防接種や妊婦・乳児接触者への予防として使われることが多いです。
→ 百日咳に対する追加免疫効果もあります。 - Sky Arch Medical Clinicでは、けがの種類や患者様の予防接種歴に応じて、適切なワクチンを選択しご提供しています。
日本における破傷風ブースター
- 使用ワクチン:Td(破傷風・ジフテリア)
- 最後の破傷風ワクチン接種から10年以上経過していれば、傷の重症度に関係なくブースターが推奨される
- TIG(破傷風免疫グロブリン)は病院に限られた在庫であり、重度または汚染された外傷かつワクチン歴不明者のみに使用される
- 成人の定期的なブースター接種は国のガイドラインでは強調されていない
- 小児期の定期接種は行われているが、成人の追加接種は外傷時または海外渡航時に限られる
オーストラリアと日本の主な違い
| 特徴 | オーストラリア | 日本 |
| 成人ブースター | 10年ごと(高リスクは5年)が推奨されている | 定期接種なし(外傷・渡航時のみ) |
| 汚染傷の管理 | >5年経過でブースター | >10年経過でブースター、TIGは限定的 |
| ワクチンの入手性 | GPや救急で広く入手可 | 病院中心、一部クリニックのみ |
| 接種履歴の記録 | AIR(全国予防接種登録)で一元管理 | デジタル化が限定的 |
オーストラリアで外傷を負った日本人成人の方へ
多くの日本人成人は、オーストラリアで外傷を負った際に破傷風ブースターが必要になります。
日本では成人の定期的な追加接種があまり行われていないため、最新の予防接種記録がない場合、以下を考慮すべきです:
- 完全な免疫を持っていないと想定する
- 10年以上前の接種、または接種歴不明の場合は、dTまたはdTpaのブースターを接種する
Sky Arch Medical Clinic(スカイアーチ・メディカル・クリニック/ブリスベン)では、破傷風ブースター接種が可能です。できるだけ早い接種(理想的には受傷後48時間以内)が、感染予防に効果的です。特に日本から来られた成人の方は、破傷風ブースターが未接種のことが多いため、外傷時にはお気軽にご相談ください。
日本人医師:長島達郎
参照:
1. Australian Immunisation Handbook – Tetanus Chapter
2. Guide to Tetanus Prophylaxis in Wound Management (ATAGI Table)
3. National Centre for Immunisation Research and Surveillance (NCIRS) – Tetanus Fact Sheet
4. Royal Children’s Hospital Melbourne – Management of Tetanus-Prone Wounds




