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梅毒について(オーストラリアと日本の発症状況情報も)

梅毒について説明します。梅毒は 梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum) という細菌によって起こる 性感染症(STI) です。
かつては減少していた感染症ですが、近年オーストラリアや日本で急激に再流行しており、社会的にも大きな問題 になっています。

  • オーストラリアでは、特にここ数年で報告数が急増し、すでに国から「重大感染症事案」として警告が出されています。クイーンズランド州でも1000例を超える報告があり、残念ながら乳児の死亡例も報告されています。特に先住民コミュニティでは全国平均の約7倍と非常に高率で、国全体で深刻な課題となっています。
  • 日本でも同様に患者数が急増しています。2022年には過去50年以上で最多となる10,000例を超え、2024年には14,663例とさらに過去最高を更新しました。東京や大阪など大都市を中心に、若い世代での急速な拡大が続いています。

このように、梅毒は 「海外だけの問題」ではなく、オーストラリアと日本の両方で現実に感染者が急増している病気 です。そのため、日常的に性感染症のリスクを考え、症状がなくても定期的な検査を受けることがとても大切です。

感染経路の多くは、避妊具を使わない性行為(口・膣・肛門を含む) ですが、妊婦さんからお腹の赤ちゃんへ感染すること(先天梅毒)もあります。
また、梅毒は 「症状が自然に消えてしまう」特徴 があり、そのために「治った」と誤解されやすく、診断が遅れることがあります。実際には体内に菌が残り続け、数年後に心臓・脳・神経などに深刻な合併症を引き起こす危険がある病気です。

早期に血液検査で発見 し、適切に 抗生物質(ペニシリン)で治療 すれば、治すことができます。
したがって、少しでも感染の心配がある方、原因不明の発疹や出血・痛みがある方、または妊婦さんは、早めの検査を受けることがとても大切です。

梅毒の経過と症状

梅毒は、感染してからの経過に応じていくつかの段階をたどります。症状が一時的に消えることもありますが、体の中では菌が生き続けており、放置すると時間をかけて進行していきます。

感染してから 2〜12週間ほど経つと「一次梅毒」 の段階に入ります。この時期には、性器や口、肛門など感染した部分に「痛みのないしこり(硬性下疳)」が現れます。一見すると自然に治ってしまうように見えますが、実際には菌が体内に残ったままで、病気そのものが治ったわけではありません。

その後、数週間から数か月の間に 「二次梅毒」 が現れることがあります。この段階では、手のひらや足の裏に発疹が出たり、発熱やリンパ節の腫れ、喉の痛みが見られることもあります。また、髪が抜けたり、口の中に潰瘍ができることもあり、全身にさまざまな症状が出てきます。

やがて症状が消えてしまうと、「潜伏梅毒」 と呼ばれる時期に入ります。この段階は数か月から数年続き、外見上は健康に見えても、体の中では梅毒菌が静かに生き続けています。本人が感染に気づかず、検査を受けないまま放置されることも多いのが特徴です。

もし治療を受けないまま長い年月が過ぎてしまうと、「三次梅毒」 に進行する危険があります。この段階になると、心臓や大動脈などの血管に障害が起こったり、脳や神経に深刻な影響が及んで、認知症のような症状や麻痺、失明・難聴を引き起こすこともあります。骨や皮膚に破壊的な潰瘍ができることもあり、命に関わる重い合併症へとつながります。


合併症

梅毒を治療せずに放置してしまうと、時間の経過とともに体のさまざまな場所に深刻な影響を及ぼすことがあります。

まず妊婦さんが感染している場合、お腹の赤ちゃんに梅毒がうつる「先天梅毒」が起こることがあります。その結果、流産や死産、早産の原因となるだけでなく、出生後も赤ちゃんに失明や難聴、骨の異常や知的発達の遅れといった一生に影響する障害を残す可能性があります。

また、長い年月が経つと、脳や神経に菌が入り込む「神経梅毒」と呼ばれる状態になることがあります。頭痛や物忘れが出たり、認知症のような症状が現れたりするほか、手足がしびれて動かなくなったり、視力や聴力を失ったり、さらには脳卒中を引き起こすこともあります。

心臓や血管に影響する「心血管梅毒」では、大動脈という太い血管がこぶのように膨らんで破裂の危険を伴ったり、心臓の弁が壊れて心不全に進行することがあります。

皮膚や骨にまで影響が及ぶと「ゴム腫」と呼ばれる破壊的な潰瘍ができ、体の一部を損なうほどのダメージを与えることもあります。

さらに、梅毒の潰瘍はHIVに感染しやすくするため、HIV感染のリスクを高める要因にもなります。

このように、梅毒は「自然に治ったように見える」ことがあっても、実際には体の奥で進行し、数年後に命に関わる深刻な合併症を引き起こす病気です。だからこそ、早めに検査を受け、治療を行うことが重要です。


検査と治療

梅毒は、血液検査 で簡単に診断することができます。当院ではその場で検査を行い、結果に応じて適切な治療につなげることが可能です。

治療の中心となるのは、ペニシリンによる注射治療 です。これは梅毒に対して最も確実で効果的な方法であり、当院で注射を受けることができます。多くの場合、この治療によって梅毒は治癒します。

ただし、治療後も体内の菌が確実に排除されたかどうかを確認するため、定期的な追跡検査 が必要です。また、梅毒は性行為を通じてパートナーにも感染している可能性があるため、パートナーの方の検査と治療も必須 となります。梅毒について心配な方は、スカイアーチ メディカル クリニック ブリスベンにお気軽にご相談ください。

日本人医師:長島達郎

参考文献

  1. CSIRO Publishing – National response to syphilis in Australia
     https://www.publish.csiro.au/SH/fulltext/SH23031
  2. Herald Sun – Deadly STI outbreak, concerning new syphilis numbers exposed
    https://www.heraldsun.com.au/health/family-health/pregnancy/deadly-sti-outbreak-concerning-new-syphilis-numbers-exposed/news-story/7fcf4686466418dae376f260b0d1bc66
  3. PLOS One – Rise in syphilis in Japan during COVID-19 pandemic https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0298288
  4. HSV Buddies – Japan reports 14,663 syphilis cases in 2024
    https://www.hsvbuddies.com/blog/japan-reports-14663-syphilis-cases-2024
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