心と皮膚のつながりは非常に強く、心理的ストレスによる皮膚疾患の悪化というケースは、GPクリニックではとても多く遭遇する病態です。ストレスは、ホルモン、免疫、行動といった複雑なメカニズムを通じて、さまざまな皮膚疾患を直接引き起こしたり、悪化させたりします。
仕事のプレッシャーや個人的な悩み、大きな生活の変化など、一般的なストレス要因に加え、新しい国への移住といった一見ポジティブな変化でも、思わぬ影響を与えることがあります。たとえば、日本からオーストラリアへ移住するような場合、新しい文化、気候、言語、ライフスタイルへの適応に伴う心理的負担によって、アトピー性皮膚炎、にきび、乾癬(かんせん)などの皮膚疾患が悪化する可能性があります。
こうした心と皮膚の関係性を理解することが、適切な対処と長期的な改善の鍵となります。
ストレスにより悪化しやすい皮膚疾患
| 疾患名 | 説明 | ストレスとの関連 |
| アトピー性皮膚炎 | 慢性的なかゆみと炎症 | ストレスによる免疫の乱れや掻破で悪化 |
| にきび(尋常性ざ瘡) | 顔に多い炎症性・面皰性病変 | コルチゾールが皮脂分泌を促進、治癒遅延、触って悪化 |
| 乾癬(かんせん) | 肘・膝・頭皮にできる赤く鱗屑のある斑 | 精神的ストレスが代表的な誘因 |
| 蕁麻疹(じんましん) | 突然のかゆみを伴う膨疹 | 原因不明の蕁麻疹をストレスが誘発・持続させることがある |
| 脂漏性皮膚炎 | 頭皮や顔に見られる脂っぽいフケや赤み | 疲労や心理的ストレスの時期に悪化しやすい |
| 酒さ(しゅさ) | 顔の赤み、ほてり、膿疱 | 血管拡張によるストレス性の再発 |
| 円形脱毛症 | 急に脱毛が起こる円形の斑 | 心理的ストレスやトラウマとの関連が指摘される |
| 神経性皮膚炎(慢性単純性苔癬) | 掻き壊しによる局所的なかゆみのある皮膚 | 不安や習慣的な掻き行動による誘発・維持 |
| 抜毛症(トリコチロマニア) | 髪を引き抜く反復行動 | ストレスや不安への強迫的反応 |
ストレスが皮膚に与える考えられるメカニズム
- コルチゾールやカテコラミン↑ → 皮脂分泌増加、バリア機能低下
- 炎症性サイトカイン↑ → 皮膚の炎症反応
- 掻痒・掻破行動↑ → 皮膚の物理的損傷
- 免疫力↓ → 創傷治癒の遅延、感染リスク上昇
- 行動面の影響 → スキンケア不足、睡眠障害、触る・掻く習慣
治療のポイント
- 皮膚疾患そのものの治療(外用薬・内服薬):
ストレスや環境変化など原因の如何にかかわらず、皮膚の症状には適切な皮膚科的治療が必要です。放置したり、自己判断で対応したりすると、慢性化や悪化を招くことがあります。症状の種類や重症度に応じて、保湿剤、ステロイド、抗生物質、抗真菌薬、免疫調整剤などの個別の治療計画を立てることが重要です。 - 心理的ストレスへの対応:
- 認知行動療法(CBT)、マインドフルネス、リラクゼーション法
- 必要に応じて心理カウンセリングや精神科への紹介
- 生活習慣の見直し:
- 良質な睡眠、水分摂取、スキンケアの継続
- カフェイン、アルコール、加工食品、栄養バランスの悪い食事の制限
まとめ
ストレスは、ホルモンや行動面を通じて、さまざまな皮膚疾患を引き起こしたり、悪化させたりします。皮膚と心の両面からアプローチするケアが、治療に大きく役立ちます。オーストラリアに来てから皮膚疾患の悪化でお悩みの方は、スカイアーチメディカルクリニックブリスベンにお気軽にご相談ください。
日本人医師:長島達郎
参照:
1. Australasian College of Dermatologists – Eczema and Stress
https://www.dermcoll.edu.au/atoz/eczema/
2. Australian Psychological Society – Stress and Physical Health
https://psychology.org.au/for-the-public/psychology-topics/stress
3. RACGP (Royal Australian College of General Practitioners) – Psychodermatology
https://www1.racgp.org.au/ajgp/2020/august/the-mind-and-the-skin
4. Allergy & Anaphylaxis Australia – Urticaria (Hives)
https://allergyfacts.org.au/allergy-anaphylaxis/urticaria




